東京科学大学物質理工学院応用化学系の安藤慎治教授と、昭和大学医学部外科学講座消化器一般外科学部門の青木武士主任教授ら研究チームは、医療現場で広く使用されている近赤外発光色素であるインドシアニングリーン(ICG)を用いた体内手術用の人体組織を透過して光る“発光性手術用ガーゼ”を開発した。人体組織を透過して明るく光り、堅牢性も高い。綿ガーゼを蛍光色素の水溶液に浸漬し、オートクレーブにより蒸熱処理することで実現した。ロボット手術や腹腔鏡手術で標準装備されつつある蛍光イメージングシステム(FIS)を用いることで、内臓組織を透過して明瞭に観察できるようになることから、手術後のガーゼ遺残を防ぐだけでなく、手術の進行をガイドする目的としても利用することができる。
この光る手術用ガーゼは通常の綿ガーゼと異なり、体内組織の裏側にあっても厚さ10mm程度であれば、発する蛍光によってその位置をリアルタイムで確認することが可能。すでに昭和大学倫理委員会の認可を得て、試験的な臨床応用がスタートしており、蛍光ガーゼを使用した腹腔鏡・ロボット支援手術14症例のうち7症例で、白色光下よりもFIS撮像下でより迅速にガーゼが検出されたことから、手術中に解剖部位を特定するための正確なマーカーとなり得ることを確認。また、すべての手術でガーゼからのICG漏洩は観察されなかった。このガーゼの作製には、人体での使用が認められている素材のみを用いており、さらに手術用スポンジや透明チューブなどさまざまな医療用器具にも適用が可能という。
この光る手術用ガーゼを使用することで、安全かつ正確な外科手術を提供することができるようになるだけでなく、手術の進行が視覚的にガイドでき、かつ術後にガーゼを探す手間や時間の短縮とX線造影糸包含ガーゼでは必要となる放射線被曝を軽減できる可能性がある。