帝人は自社の極細繊維状炭素“PotenCia(ポテンシア)”と独自の紙すき技術を用いてパラ系アラミド繊維“トワロン”と組み合わせることで、厚さ50μmという業界最薄クラスのガス拡散層(GDL)の開発に成功した。ガス拡散層は、燃料電池の内部で使用する部材であり、水素や酸素を供給、電極の化学反応で生じた電子の集電、および生成水の排水などを担う。帝人は今回開発した薄型GDLを提案していくことで、燃料電池の小型化や高性能化の実現に貢献していきたいとしている。
開発に成功したのは、ポテンシアとトワロンを組み合わせた微多孔構造のGDL。ポテンシアの優れた導電性とともに、その柔軟性によって燃料電池内部の触媒層を傷つけず、またトワロンを使用したことによりGDLの耐久性を維持し、はっ水加工が落ちづらいのではっ水性にも優れるなどの特徴を発揮する。これらの特徴から、新開発のGDLには従来必要だったマイクロポーラス層(MPL)の付与が不要となり、厚さ50μmのGDLを実現することができた。これは一般的なGDLの約半分以下の薄さであり、「業界最薄クラス」(帝人調べ)になるという。
MPLの付与が不要となるので製造工程の短縮化を図れるだけでなく、大幅な薄型化により使用原材料の削減も可能なことから、製造コストや環境負荷の低減に貢献する。
帝人は、長年培ってきた繊維加工技術を用いて繊維長が長く高い結晶性を有する極細の繊維状炭素“ポテンシア”を開発。ポテンシアの特徴である導電性や熱伝導性などを活かすことのできる用途を探索していた。そうしたなかで着目したのが、燃料電池の小型化や高性能化、低価格化に対するニーズの高まりにともない期待されている燃料電池用部材であるGDLの薄型化やコストダウンであった。
GDLには従来、導電性や耐久性を有する炭素繊維シートが使用されてきている。しかし、炭素繊維シートを用いると、それにより生じる燃料電池内部の触媒層に対する傷つきや不均衡なガス拡散、電極の化学反応にともなう生成水の貯留などの問題を防ぐために、はっ水剤などを用いた微多孔構造のMPLをGDLに付与することが一般的となっている。しかし、MPLを付与すると全体の厚みが増すことになるため、燃料電池の電力性能に関わるガス拡散能力が低下するという課題があった。また、炭素繊維シートの製造に加えてMPLを付与するための工程も生じるので、それがコストダウン上のネックとなっていた。帝人は、こうしたGDLが抱える課題の解決にポテンシアとトワロンが活用できると考え、新たなGDLの開発を進めていた。
帝人は今後、今回開発したGDLのガス拡散性や導電性など燃料電池の性能向上に欠かせない項目のほか、製造工程の短縮や使用する原材料の削減にともなう環境負荷低減への貢献度について検証を進めていく。開発した新たなGDLの提供に留まらず、燃料電池の小型化や高機能化を目指す企業とともに、GDLを用いた新たな電極膜などの共同開発についても目指していきたい方針。また帝人は、この開発を契機として、燃料電池関連製品の開発をさらに強化し、革新的な高性能材料とソリューションを提供していくことで、同社が長期ビジョンとして掲げる「未来の社会を支える会社」を目指していきたいとしている。